PFC回路とは、省エネではなく力率改善のための回路です

PCの電源の記事が話題です。異論を唱えている人も多くいますが、何よりもPFC回路を省エネ回路と位置づけているところがダメです。

PFCは自分のためでなく、ほかの機器の良好動作のためです。そして、外部からのノイズが……とよく言いますが、自分の機器もノイズを発してることを認識すべきです。電源回路にあるフィルターは外部ノイズの遮断でなくて自分のノイズを外部に影響させないためでもあります。外部から来るものばかり悪者扱いして、自分が悪者になるという観点がなく語るのは本当に危険な考えです。

PFCの役目は力率改善です。力率とは、交流電源で、供給された電力に対してどれだけ有効に使われたかの比率であり、力率が悪い電気製品を接続すると、ほかの機器に悪影響を及ぼす恐れがあり、それをなんとかするための回路です。規制もあります。

繰り返し言いますが、PFC回路は省エネ性能とは直接関係なく、自分の家だけではなく、同じ電灯線につないでいる機器に対して迷惑を及ぼさないために必要になるものです。

力率をもう少し詳しく説明すると、電灯線の交流は正弦波のカーブで絶えず電圧が変動しています。それをただの抵抗で消費するならば、電圧に比例して電流も流れます。中学で習うオームの法則のI=E/Rのとおり、R(抵抗)が一定ならばE(電圧)の変動はI(電流)に比例します。

(図・正弦波・あとで掲載)

単なる抵抗の消費とは、白熱電球や、ニクロム線を使っただけのシンプルな仕組みのヒーターや電気コンロです。これらの状態を力率を 1 といいます。

ところが、ふつうの電子機器は内部で電気を直流で使うために交流から直流に変換します。整流という行程で、ふつうは片方の方向にしか電気を流さないダイオードを使います。しかし、ダイオードで整流しただけでは正弦波のカーブの半分を折り返した脈流になり、反対方向には流れなくなったものの、絶えず電圧変動しているのは変わりません。

(図・脈流の様子・あとで掲載

これをコンデンサーを使って細かく蓄積と放電を繰り返し、一定に近い直流に直します。こうして初めて電子機器に使うことができるのです。実際には電圧安定のためにもう少し高度な回路がついていますが基本はコンデンサーによる脈流の平滑化からはじまります。

(図・コンデンサーを使って平滑化したあとの電圧変化の例)

では、コンデンサーで脈流のデコボコを取ろうとするとどうなるか、電圧の電流の比例関係が崩れます。電圧が上がるところでコンデンサーは充電しようとして電灯線からの電流が増え、電圧が下がるところで放電するので電流が減ります。

電線にはわずかですが抵抗分があります。正弦波の電圧変動とは比例しない電流の動きがあると、電線の抵抗分によって、電流が多い瞬間は末端の電圧が下がり、電流が少ない瞬間は末端の電圧が上がります。

(図・コンデンサーを使った場合の電流変化・あとで掲載)

つまり、正弦波で送られてきたはずのきれいな交流だったものが、電圧が上がる瞬間で電流が増えるために末端の電圧が下がり、波形が崩れてしまいます。波形が崩れることはノイズの一種です。力率の悪い機器が大量だったり、力率の悪い大電力機器が接続されていたりすると、電源波形は乱れに乱れノイズだらけの電気が届くことになります。

(図、力率の悪い機器の影響で乱れた波形・あとで掲載)

ノイズだけならまだしも、さまざまなところに悪影響を及ぼし、機器の寿命や故障に影響するおそれもあります。もとの正弦波の波形の周期に連動して波形の乱れを起こさせるため、整数倍の周波数成分(いわゆる高調波)が含まれることになり、これを規制するのは電気製品などにある「電源高調波規制」ということになります。

PFCを構成する回路はさまざまです。要は力率を改善できればいいので、用途や規制、コストによってさまざま。回路の前のほうにコイルを入れるものもありますし、途中で電流を動的に調整するActive PFCもあります。

Active PFCを備えたPCの電源が省エネなのは、力率を改善することで結果的に電力を無駄なく使い、結果的に自分のところが高効率で省エネということになることがある、という間接的な影響と捉えたほうがいいでしょう。

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