ラジオのAMとFMの違いから考える、電波の周波数による違いと、AM放送の終息について
ラジオのAM放送とFM放送の違いを解説するとき、「FM波」「AM波」という違いで説明されることがあります。これだと電波形式の違いだけで、放送している周波数帯による違いは含まれません。FM放送とAM放送の違いは、電波形式による音質などの違いのほか、周波数による違いが大きいです。
低い周波数のほうが遠くに届きやすい一面がある
携帯電話のプラチナバンドの説明で、低い周波数のほうが影に回り込んで電波が届きやすいとされることが多くあります。話はそんな単純なものではないのですが、確かにその傾向はあり、周波数の低いAM放送のほうが遠くに届きやすい性質を持っています。
このこともあって、AM放送のほうが遠くまで届きやすいとされていますが、これは電波形式がAMだからではなく、周波数が低いことが大きいです。日本にはないですが、世界にはさらに低い周波数の長波(LW)のラジオ放送もあります。欧州やロシアなど広い地域に電波を届けたい放送局が長波を採用しています。
では、AM放送の周波数帯なら電波が届きやすいのなら、AM放送の周波数帯でFM形式で放送を届ければ、もっと高音質で届きやすい放送になると思うかもしれませんが、それができない事情もあります。これは後述します。
低い周波数帯が絶対優位ではなく、デメリットもある
低い周波数のデメリットといえば、アンテナのサイズが大きくなることです。アンテナは電波と共振することで電波を放出しますが、電波には波長というものあり、アンテナを共振させるには波長が関係します。電波の波長とは電波の速度(光と同じ)から周波数を割ったものになります。周波数が低ければ波長が長く、高ければ波長は短くなります。
アンテナを同じ構造、同じ利得(ある方向に発射される電波の強さ、または受信できる電波の強さを表した数値)で作ろうとした場合、波長の長さに比例して大きくなるため、周波数が半分になれば、アンテナのサイズは2倍になります。
日本におけるワイドを含むFM放送は76.1~94.9MHzで、AM放送は概ね526~1620KHzです。周波数にしてだいたい100倍程度の差があります。つまり、同じ利得で電波を受信するような性能を持ったアンテナにするには、FM放送に対してAM放送はだいたい100倍の大きさが必要になります。
もちろん、これは送信側にも言えることで、FM放送の送信アンテナが大きさが3mなら、AM放送を同じ構造と性能で実現するためには300mということなります。AM放送では送信所に広大なスペースと設備が必要なため、FMに移行したいという民放連の考え方は、これで理解してもらえると思います。
受信側の聴取者のラジオのアンテナがコンパクトにまとまっているのは、感度を犠牲にして小型化しているからです。
そして、受信側のアンテナのせいだけではありませんが、AMラジオ放送のほうが放送の送信出力が大きいです。例えばTOKYO FMは80.0MHzで10KWですが、TBSラジオは954KHzで100KWです。NHKでいえば、593KHzの第1放送が300KW、694KHzの第2放送が500KW、それに対して82.5MHzのNHK-FMは東京スカイツリーから送信していることもあって7KWです。実際にはFM放送のほうは高い利得のアンテナを使っているので、届く電波の強さは送信出力と比例しませんが、AM放送のほうが大電力で送信するため、コストや手間がかかることになります。
低い周波数帯では、FM波による放送はやりにくい
では、現在のAM放送で使っている周波数帯でFM波による放送をすると、高音質で届きやすい放送になるのかと思うかもしれませんが、そうはうまくいきません。原理的にはできますが、FM変調をするためには1つの放送局あたりの周波数の幅が広く必要になるため、実現が難しいからです。
例えば、文化放送の周波数は1134KHzですが、周波数は一定ではなく、無音のときは1134KHzでも音声を乗せた分だけ周波数が変動します。この変動の方法が、仕組み的にAM波とFM波で異なり、変動の幅がFM波のほうがずっと大きくなります。
放送の周波数をよくみると、FM放送のほうが同じエリアの放送局間の周波数が離れていて、AM放送は狭まっています。たとえば、TOKYO FMとJ-WAVEは1.3MHz離れていますが、文化放送と日本放送は108KHz=0.108MHzしか離れていません。FM波でこんなわずかな間隔では混信してしまいます。いまのAM放送の526~1620KHzの幅であれば、収容できる局は1つか2つ程度になってしまいます。
そして、FMのほうがノイズのない良好な音質になる仕組みではありますが、電波が弱いときにある程度明瞭に聞こえるという点ではAMのほうが強いです。混信の度合いによってもAMが有利なこともあります。
反対に、高い周波数帯でAM波による放送はできるが、受信機普及の問題がある
では、ワイドFMとよばれる90MHzから94.9MHzまでにAM放送が引っ越すならば、その周波数でAM波による放送をすれば、聴取できる範囲が少しは広がると考えるかもしれません。AMのあの味のある音質で聞くこともできそうです。
たしかにそうなのですが、今度は、新たに受信機を作り、それを普及させなければならないという大きな問題があります。
ワイドFMでも対応受信機でないと受信できないのですが、周波数範囲を少し広げるのと、現在のAM放送の受信回路を大きく離れた高い周波数帯に対応できるように設計しなおすのでは手間が違います。そうなると、受信機であるラジオの普及という面では大きなハンデになります。もちろん送信機の開発コストも大きくアップするでしょう。
つまり、AM放送の引越し先としては、ワイドFMがベターな選択ということになります。
ちなみに、ワイドFMは新型の受信機でないと受信できないわけではありません。昔あったアナログテレビ放送の1~3chの音声受信ができるラジオや、海外対応で上が108MHzまで受信可能なラジオはすでに存在し、これらで受信可能です。また、アナログチューナーのラジオなら上が90MHzぴったりでなく少し上なら受信できます。TBSラジオのワイドFMは90.5MHzでアナログ式のラジオなら受信できたという事例が多くあります。こういった点もワイドFMが有利です。
これを機会に、AMラジオ放送について考えてみては?
この話にオチはないのですが、現在のAM放送が抱える問題と、ワイドFMに移行しなければならない周辺事情について説明してみました。
今後、環境に変化があったとしても、現在の中波でのAMラジオ放送が電波を使って放送することは終息に向かうことは避けられないでしょう。インターネットの普及で、現在のFMラジオ放送でさえ今後どうなるかはわかりません。
ラジオは災害対策として有効という話があったとしても、より高度で、個別に最適な防災情報が必要になる時代に、広範囲の放送での情報提供が有効なのかという問題や、そもそもラジオをみんな持っているのかということや、非常時にラジオの操作ができる人がいるのかという問題もあり、災害対策としても、考え直される時期が来るでしょう。
AMラジオ放送のあの雰囲気と、音質が好きという人は、この先、いつまでつづくわからないAMラジオ放送について考え、いまのうちに満喫する方法を考えるのがいいと思います。